新年最初の注目都市といえば、やはり杭州(Hangzhou)だ。
春節(旧正月、Lunar New Year)期間中、中国発のAIモデル「深度求索(DeepSeek)」が世界中で話題となり、各国のアプリダウンロードランキングでトップを獲得した。さらに、宇樹科技(Unitree Robotics)のロボットが春節の特番「春晩」の舞台で見事なパフォーマンスを披露し、注目を集めた。
時を少し遡ると、中国初の本格3Aゲーム『黒神話:悟空(Black Myth:Wukong)』が世界市場を席巻し、雲深処科技(DeepRobotics)の四足歩行ロボット「絶影X30」がシンガポールの電力トンネルで活躍。また、強脳科技(BrainCo)はブレイン・マシン・インターフェース(BMI)分野をリードし、群核科技(Manycore)は世界最大規模の室内空間認識データセットを構築した。
これら6社はすべて杭州で誕生し、AIや脳科学などの分野で世界に影響を与えていることから、「杭州六小龍(杭州の6つの小さなドラゴン)」と称されている。
EC時代の「ソフト産業」からAI時代の「ハードテクノロジー」へ
杭州市の夜景(2023年10月23日撮影、資料写真)。(c)CNS/陳楚紅
■杭州はなぜ、時代の最前線を走り続けることができるのか?
成功するためには、制度的な支援という「肥沃な土壌」と、企業を育てる「水やり」が必要だ。
杭州はビジネス環境の最適化に注力し、産業発展の支援策として「サービス」を最優先してきた。その結果、中国全国工商連合会の「民間企業によるビジネス環境ランキング」で5年連続1位を獲得し、中国民間企業500強の企業数でも22年連続で全国トップを維持している。
こうした環境は、「六小龍」の成長過程にも表れている。例えば、遊戯科学(%%Game Science)%%が創業した当初、西湖区の芸創小鎮はゲームなどのデジタルコンテンツ企業向けに3年間の家賃全額補助や減免を提供した。また、宇樹科技が資金難に直面しながらも、杭州の投資家からの支援により再起を果たしたことも象徴的な例だ。
■杭州が築いたイノベーションエコシステム
杭州は、トップクラスの大学や研究機関を活用し、科学技術の成果を迅速に社会実装する「高速道路」を整備してきた。その結果、大学・大型研究施設・イノベーションプラットフォームを中心としたエコシステムが形成され、世界の主要なテクノロジー都市ランキングでは3年連続で14位にランクインしている。
さらに、杭州はオープンで包容力のあるイノベーション環境を整備し、若者が挑戦しやすい風土を醸成している。そのため、杭州の人口流入率は中国全国トップクラスであり、ハイテク産業の成長に不可欠な人材が次々と集まっている。
■AI都市への転換は「偶然」ではなく「必然」
杭州がAI技術の最前線に立つ背景には、先見性のある政策がある。
中国で「ライブコマース元年」とされるのは2016年だが、それより前の2014年に杭州は「一号工程(No.1プロジェクト)」として情報経済とスマートアプリケーションの推進を掲げ、産業の変革とイノベーションを促していた。
その後、医療や都市管理など、さまざまな分野でAIの活用を促進する政策が整備され、杭州のAI産業の基盤が確立された。その結果、2022〜2023年の「中国AI都市ランキング」では、杭州が全国2位にランクインし、新一線都市(北京・上海・深セン<Shengzhen>・広州<Guangzhou>に次ぐ都市)の中で唯一トップ5入りを果たした。
また、2023年には杭州のロボット産業の生産額が150億元(約3167億円)を超え、ロボット関連の「専精特新(特化・精密・ユニーク・新興)企業」も10社以上に達した。これらの企業は、ロボット部品製造、完成機の開発、システムインテグレーションなど、多様な分野にまたがっている。
政策、人材、エコシステムが一体となり、AI分野における杭州の成功を支えている。「杭州六小龍」の台頭は、偶然ではなく、杭州が築いてきた環境の必然的な結果だ。
■次の「未来都市」はどこか?
杭州は、すでに未来の姿を体現している。現在、多くの都市がAI産業の育成に力を入れているが、次なる「未来都市」はどこになるのだろうか?杭州の成功モデルを参考にしながら、今後の動向が注目される。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM