中国アニメ映画『哪吒之魔童鬧海(英題:Ne Zha2)』(以下『哪吒2』)の興行収入が100億元(約2085億400万円)を突破し、世界歴代興行収入ランキングで17位に躍り出た。
専門機関の最新予測によると、『哪吒2』の最終興行収入は160億元(約3336億640万円)を超える可能性があり『スター・ウォーズ/フォースの覚醒(Star Wars:The Force Awakens)』を超えて世界歴代トップ5に入り、非英語映画として初めて世界興行収入トップ10入りを果たすかもしれない。
歴史を塗り替え続けるこの映画は、「成都発」の作品としても注目を集めている。
脚本の開発を担当した可可豆動(Kekedou Animation Film and Television)は成都市(Chengdu)の企業であり、監督の餃子(Jokelate)さんも四川省(Sichuan)出身だ。さらに、エンドクレジットに名を連ねる138の中国の技術チームの中にも、多くの成都の企業が含まれている。例えば、墨境天合(%%More VFX%%)はVFX(視覚効果)を担当し、炬煋文化は特殊効果、画心科技(HX)は美術制作、艾爾平方(L Square Culture Communication)は3D背景のレンダリング、声娯文化(Sound Entertainment Culture Communicati)はキャラクターボイスを担当している。
北京市の映画館に飾られている『哪吒2』のポスター(2025年2月3日撮影、資料写真)。(c)CNS/趙文宇
■なぜ成都からこのような大ヒット作が生まれたのか?
その理由は、この都市が持つ強力な産業基盤、文化的背景、そして革新を支えるエコシステムにある。
2005年、中国初の「国家オンラインゲーム・アニメ産業発展基地」が成都ハイテク区に設立された。その後も、国家アニメ・ゲーム産業振興基地、国家級文化・科学技術融合モデル基地、中国(成都)オンライン視聴覚産業基地と、次々と文化産業の拠点が築かれた。
2022年には、成都は「デジタル文化創造産業発展第14次5か年計画」を発表し、文化産業を国内トップレベルに引き上げる方針を打ち出した。
デジタル文化産業の成長により、成都の産業クラスターはわずか10分の移動距離圏内に集中するほど整備された。可可豆動画が拠点を置く天府長島デジタル文化クリエーティブパークには、ゲーム、映像制作、デジタル音楽、超高精細映像などの分野をカバーする6000以上の企業が集まっている。VFXを手がけた墨境天合も、可可豆動画のすぐ近くに位置している。
■アニメ産業を支える成都の人材
成都は、中国西部の経済の中心地であり、2024年のGDPは2兆3511億元(約44兆5179億円)に達し、全国7位となった。特にサービス業が経済成長を支えており、その貢献度は70.5パーセントに及ぶ。
生活コストの低さや快適な居住環境も相まって、北京市や上海市、深セン市(Shengzhen)から多くのクリエーターが成都に移住し、「蓉漂(成都移住者)」と呼ばれるコミュニティを形成している。また、四川大学(Sichuan University)や電子科技大学(University of Electronic Science and Technology of China)などの地元大学がデジタル文化関連の学科を設置し、業界に優秀な人材を輩出し続けている。
現在、成都の映像業界には10万人以上が従事し、映像関連の学科に在籍する学生は22万人を超える。『哪吒2』の制作チームも「まるでオリンピック村のように、全国のトップクリエーターが集結した」と語る。
■技術と文化が融合する成都
『哪吒2』には、成都ならではの文化要素も随所に取り入れられている。例えば、作中に出てくる太乙真人が話す四川訛りのユーモラスな中国語、結界を守る神獣に刻まれた三星堆文化の青銅紋様、竹椅や蓋碗茶を囲む陳塘関の街並みなど、成都と四川の文化が色濃く反映されている。
成都の豊かな文化と開かれた気風は、クリエーターにとって創作のインスピレーションとなり、デジタル文化産業の持続的な発展を支えている。
2024年、成都ハイテク区のデジタル文化企業は6000社を超え、そのうち162社が規模以上企業として認定され、売上高は前年比25.2パーセント増の1141億元(約2兆3790億円)に達した。
■成都発のヒット作は『哪吒2』だけではない
これまでにも、騰訊(テンセント、Tencent)のゲーム「王者栄耀(Honor of Kings)」、アニメ『十万个冷笑話』、コミック「那年那兔那些事儿」など、多くの人気コンテンツが成都から生まれている。
次々と誕生するヒットIP(知的財産権)は、『哪吒2』の成功が偶然ではないことを証明している。長年培われた産業基盤が、ついに世界レベルの作品を生み出すまでに成長したのだ。
映画のラストで語られた「俺たちはまだ若い、だから天井を知らない」というセリフのように、成都のデジタル文化産業はまだ始まったばかりだ。さらなる飛躍が期待されている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM