貴州省(Guizhou)と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。
奇岩が連なるカルスト地形や、山あいに響くミャオ族やトン族の歌声を思い浮かべる人も多いかもしれない。中国東部の沿海地域が改革開放の波に乗って発展を遂げていた頃、山に囲まれたこの内陸の省は、まだ「貧困」というレッテルを背負っていた。
しかし、そうした固定観念を取り払ってみると、貴州はすでに大きく変わり始めている。
経済指標がそれを物語っている。かつて「人は三分の銀(お金)も持たない」とまで言われていた地から、経済規模は歴史的な飛躍を遂げ、1人あたりのGDPは5万元5万元(約103万7385円)を突破。デジタル経済の成長率は9年連続で全国トップクラスを維持している。
雲海に包まれた貴州省赫章県の中心市街地を空撮(2025年2月27日撮影、資料写真)。(c)CNS/陳春志
中国最大の電波望遠鏡「天眼(FAST)」が見上げる星空の下で、かつて遅れをとっていたこの地は、自らの力で新たな時代を切り開いている。
■山に閉ざされた地から、つながる拠点へ
「三里の平地もない」と言われるほど、かつての貴州は山がちで、交通インフラが整っていなかった。そのような環境の中、現在建設が進められている花江峡谷大橋は、水面からの高さ625メートルという世界屈指の規模を誇り、現時点で世界一高い北盤江大橋よりも60メートル高い。
貴州はこれまでにも多くの巨大橋梁を建設し続け、今では県レベルの行政単位すべてが高速道路でつながるまでになった。2024年時点で、高速道路の総延長は9042キロ、道路全体では22万キロを超えている。
この交通網の整備は、単なる物理的な移動手段の改善にとどまらず、人びとの意識や発想の枠をも広げた。貴州省・広東省(Guangdong)・広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)を結ぶ高速鉄道の開通により、3省は「4時間生活圏」になり、貴州省遵義市(Zunyi)からは中欧班列が中央アジアへと向かって走っている。「一帯一路(Belt and Road)」の高品質な共同建設にも深く関わるようになり、山々に囲まれた貴州は新たな国際的位置づけを手に入れた。
道路や鉄道、水運や空港などのインフラ整備は、貴州が世界とつながるための土台となった。それによって外の世界と物理的につながっただけでなく、産業の高度化や経済成長にも大きな追い風となっている。
■伝統産業から現代産業への転換
沿海の経済先進地域とは異なり、貴州は長年、石炭、非鉄金属、化学工業といった伝統的な産業に依存していたため、産業構造の単一性や成長の鈍さが課題だった。だが、交通インフラの整備により、こうした制約を乗り越える環境が整った。
この基盤を生かして、貴州は伝統産業の転換・高度化を加速させ、産業全体のデジタル化を推し進めている。「一業一チェーンリーダー一プラットフォーム」という統合型の手法を打ち出し、多くの実業企業がデジタル技術の力で新たな成長を遂げつつある。
たとえば、世界経済フォーラムが発表した2025年の「灯台工場」リストには、貴州タイヤが名を連ねた。大規模なデジタル技術の導入によって、生産性とサプライチェーンの安定性で高く評価された。
現在、貴州でクラウド技術を導入している企業はすでに3万社を超えている。産業構造の高度化が経済に新たな活力を与え、戦略的新興産業の育成こそが、今後の貴州経済の核心をなす要素になりつつある。
■継承から革新への飛躍。
文化の継承から技術革新へと進む中で、貴州のろうけつ染めや刺繍といった伝統工芸は、いまやイノベーションの力を取り入れ、市場へ、そして海外へと羽ばたき始めている。この「継承から革新への飛躍」は、単なる文化遺産の保護にとどまらず、新たな産業エネルギーの創出にもつながっている。
第14次五か年計画のもと、貴州は戦略的新興産業の育成に力を注いでおり、たとえば特産農産物の高度加工、航空装備の製造、新エネルギー、新エネルギー車(NEV)、省エネ・環境保護、デジタルおよび文化クリエイティブ産業といった分野を重点的に発展させている。これらの産業は、従来の産業構造の限界を打ち破り、貴州を高付加価値型の産業地域へと導いている。
なかでも「電動貴州」プロジェクトは目覚ましい成果を上げており、2024年には電池材料から動力電池、新エネルギー車までを含む産業チェーン全体が急速に成長した。電子製品製造業の付加価値は前年比で25.3%増加し、自動車製造業は66.2%の伸びを記録。リチウムイオン電池の生産量も6.0%増となり、新エネルギー車の生産台数は前年比で実に30倍という飛躍的な成長を遂げた。
今、貴州では、「黔産品(けんさんひん、貴州の特産品)」を積んだトラックが北盤江大橋を越え、光ファイバーが山々を貫き、貴陽には「中国のデジタルバレー」とも呼ばれるハイテク拠点が誕生している。
かつては内陸の取り残された省と見なされていた貴州が、いまや開かれた新たな成長拠点へと進化しており、経済は量的成長と質的進化の両方を実現している。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM