王陽明(Wang Yangming)は中国の歴史上、重要な哲学者・思想家であり、「知行合一」「心即理」「致良知」を核心とする陽明心学は、中華伝統文化の発展に深い影響を与えてきた。陽明学は五百年以上にわたり継承と発展を重ね、時空を超えた思想の輝きを放ち続けている。日本においても、王陽明は朱子学の批判者として知られており、その思想は広く注目されてきた。
では、陽明心学はいかにして海外へ広まり、世界の多様な文化の交流と融合を後押しすることができたのか。湖南大学(Hunan University)岳麓書院の教授である李偉栄(%%Li Weirong%%)氏によれば、欧米における陽明学の伝播には、大きく三つの経路があるという。第一に、西洋の宣教師や学者が陽明学に魅了され、それを欧米に紹介し広めたこと。第二に、日本における陽明学を通じて間接的に伝わったこと。第三に、華人学者たちによる幅広い研究と紹介活動である。
欧米で最も早く陽明心学を伝えた人物として、ドイツの哲学者ゴットフリート・ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz)の名が挙げられる。彼は書簡の中で「心即理」や「万物一体」などの陽明心学の概念を引用し、中国哲学における「理」の思想を体系的に論じた。さらに、フランスのイエズス会士・ジャン=バティスト・デュ・アルド(Jean-Baptiste Du Halde)が1735年に完成させた全四巻の書籍『中華帝国全志』では、中国に派遣されたフランス人宣教師が翻訳した王陽明の著作が引用されており、これが陽明心学を直接欧州に紹介した初期の重要文献の一つとされている。
浙江省紹興市にある王陽明の故郷に多く訪れる観光客たち(2023年10月3日撮影、資料写真)。(c)CNS/項菁
陽明心学の欧米における普及を実質的に推し進めた人物としては、米国の学者であり、メソジスト派の宣教師でもあったフレデリック・グッドリッチ・ヘンケ(Frederick G.Henke)の存在が大きい。彼は20世紀初頭、陽明心学に関する多数の論文を執筆し、特に1916年に完成させた英訳書『王陽明の哲学思想』は、非常に大きな影響を与えたとされる。米国国籍の著名な華人学者であり、陽明学の専門家でもある陳栄捷(Chen Rongjie)氏は、この翻訳書によって王陽明の思想が初めて体系的かつ完全な形で西洋に紹介されたと評価し、その出版を陽明学の欧米伝播における画期的出来事と位置づけている。
東アジアにおける研究動向と比べると、欧米の学者たちは陽明学に対して異なる関心を抱いている。東アジアにおける陽明学は、学問としての体系化が進んでいる一方で、欧米ではいまだ構築段階にあり、主に王陽明個人およびその学派に焦点を当てている。また、宗教や哲学との比較研究が重視されており、「致良知」「知行合一」「万物一体」といった核心概念が欧米でも広く受け入れられ、活用されるようになってきている。
浙江省寧波市余姚にある王陽明旧居にて介された「2019寧波(余姚)陽明文化週間」の開幕式と「知行合一――王陽明を祀る儀式」(2019年10月31日撮影、資料写真)。(c)CNS/何蒋勇
李偉栄氏は、陽明心学が言語や時間の壁を超え、中国のみならず世界の象徴的な思想の一つとなり得た理由について、それが人類が直面する現実的な問題の解決に資する力を持ち、人類共通の価値観を包含しているからだと述べる。国家の統治から個人の成長に至るまで、人びとが「知行合一」と「致良知」を実践し、善を思い、それを行動に移すことができれば、「至善」に到達できるという考え方は、時代や国境を超えて多くの人びとに共鳴を呼んでいる。
現代の世界は多くの課題に直面しているが、中国が提唱する「人類運命共同体」という理念は、陽明心学が内包する思想と深く響き合っている。この思想は今後も世界的な共感を呼び続け、平和と発展、そして長期的な安定に対して継続的な貢献を果たすに違いない。(c)CNS/JCM