「鉄板が車のドアになるなんて、まるで布を裁断して服を作るみたい!」——。新エネルギー車のドアがプレスされる工程を見た中学生の陳旭(Chen Xu)さんは、驚きの声を上げながら重要な数字をノートに書き込んだ。彼が両親とともに訪れていたのは北京市密雲区にある新エネルギー自動車工場で、この施設で実施されている「工場見学ツアー」は近年中国国内で急速に人気を集めており、同国における産業観光ブームの象徴となっている。
中国・北京の亦荘にある小米汽車工場の展示ホールを見学する観光客(2024年6月26日撮影、資料写真)。(c)CNS/孫自法
飲料工場の製造ラインを見学したり、火鍋スープの素の製造工程を観察したり、家電の組み立て現場を訪れたり、新エネルギー車の生産ラインに足を踏み入れたりと、中国では今、多くの業種が一般向けに工場を開放している。対象業種は自動車、機械、食品加工、アパレル、生物医薬など多岐にわたり、消費者からの注目が年々高まっている。文化・観光部のデータによると、2022年以降、中国では国家級の産業観光モデル基地が2回に分けて計122カ所認定されており、工場見学ツアーはその中でも代表的な形態の一つである。
こうした「工場ツアー」の人気の背景には、中国の先端技術やスマート生産への好奇心がある。高度に自動化された生産ラインや整然と動くロボットアームが織りなす近未来的な工場の景観は、「サイバーパンク」的な美学に惹かれる若い世代に特に強い魅力を与えている。
また、教育的価値も高く評価されている。子どもを連れて実際の工場を訪れ、ネジを締めたり部品を組み立てたり、ジュースを調合したりする体験を通じて、身の回りにある製品がどのような工程と技術によって作られているのかを、子どもたちは実感をもって学ぶことができる。
「工場ツアー」そのものは決して新しいコンセプトではなく、日本や欧米ではすでに長年にわたり定着している。たとえば札幌市の「白い恋人」チョコレート工場では、生産ラインの見学や手作り体験、定期開催のライトショーやパフォーマンスなどが訪問者に強い印象を与えてきた。
中国における「工場見学」も、実は近年になって始まったものではない。早くも2003年には、上汽大衆汽車(SAIC Volkswagen)が産業観光の受け入れ部署を立ち上げていた。しかし、当時は一般の注目度が低く、多くの人びとはそうした機会の存在すら知らなかった。また、見学対象は主に政府や企業の視察団に限定されていた。
だが近年、中国の製造業が高度化・スマート化を進めるにつれ、見学と実際の生産の干渉が減少し、工場側も自らの技術力を外部に示すことに前向きになってきた。企業は公式ウェブサイトや「大衆点評」アプリ、旅行予約サイト「携程(Trip.com)」などで、一般向けの観光チケットの予約や販売を行うようになっている。
現在、中国で比較的成熟した「工場ツアー」は、伝統的な消費財ブランドが中心で、たとえば北京市の炭酸飲料「北冰洋」や、青島市(%%Qingdao%%)の家電ブランド・海爾(ハイアール、Haier)、広東省(Guangdong)の美的集団(Midea)などが挙げられる。一方、ここ数年では、スマート製造の代表的企業もこの分野に参入しており、中国商用飛行機メーカー・中国商用飛行機(Commercial Aircraft Corporation of China)、北京新能源汽車(BAIC BJEV)「享界」、そして小米汽車科技(Xiaomi Auto Technology)などが、一般向けの常設工場見学を開始し、大きな関心を集めている。中には予約が殺到し、「チケットが手に入らない」といった状態になる工場もある。
注目すべきは、この「工場ツアー」をより公共性のある観光サービスとして確立するために、中国政府がすでに政策支援とガイドを打ち出している点である。2021年には文化・観光部、国家発展改革委員会、教育部、財政部など8部門が共同で文書を発表し、工業文化を備えた観光モデル基地や観光ルートの整備を目指すとした。さらに2024年2月には、北京や上海が産業観光に関する文書を発表し、資金や土地の提供といった面で関連企業への支援政策を示している。(c)CNS/JCM