中国・広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)の南沙区が、新たな政策の恩恵を迎えた。
このたび発表された「広州南沙における世界に向けた粤港澳全面協力の深化に関する金融支援意見」(以下「南沙金融30条」)は、南沙の開発と開放の要所に照準を当て、戦略的に構成された内容となっている。
今後、南沙は中国における金融業の対外開放の試行的なモデル地区、金融イノベーション機能の集積地、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオグレーターベイエリア、Guangdong-Hong Kong-Macau Greater Bay Area)における国際金融ハブの重要な結節点として整備される見通しである。
南沙金融30条は、内容の充実度においても際立っている。
全文は、「起業・イノベーションに対応する金融サービスの充実」「社会・民生分野における金融支援の強化」「特色ある金融サービスの育成」「粤港澳の金融市場の相互接続の推進」「越境金融のイノベーションと交流の展開」「金融監督体制の整備」という六つの柱からなり、計30項目の重点的な施策が盛り込まれている。
第一に、「湾区に根ざす」ことを打ち出し、起業とイノベーションに重点を置いている。具体的には、科学技術イノベーション、高度製造業、デジタル産業、海洋経済、未来型産業の発展を金融面で支えることを狙いとしている。
第二に、「香港・マカオとの連携」を重視し、金融サービスの利便性、現代化、デジタル化の向上を図る。たとえば、粤港澳大湾区の発展に適した資金決済政策の模索、域内外を結ぶ先物・現物市場のルール整備、越境保険取引の円滑化などに取り組み、域内3地域の住民や企業の多様なニーズに応える体制づくりを進めている。
第三に、「世界に開かれた金融」を掲げ、制度レベルでの高水準な開放を推進する。たとえば、金融業の対外開放の拡大、越境人民元業務のイノベーション推進、貿易・投融資の管理体制の改善、制度型開放の実践などにより、南沙における高品質な発展の中核的な競争力を形成する。
広東省広州市、南沙区・霊山島尖にある金融・商業開発試験区の新たな景観(2025年4月4日撮影、資料写真)。(c)CNS
今回発表された南沙金融30条は、南沙に対する国家レベルの金融支援政策としては初めてではない。
2014年には、中国人民銀行(People's Bank of China、中央銀行)をはじめとする10の省庁が連名で「南沙金融改革15条」を発表し、南沙の金融改革が本格的に始動。2022年には、国務院が「広州南沙における世界に向けた粤港澳全面協力の深化に関する総合計画」を発表し、金融分野への集中的な政策支援が実施された。そして今回の新政策により、南沙の金融改革は新たなステージに入った。
南沙が3回目の国家レベルの金融政策支援を受けることができたのは、ハード面・ソフト面ともに高い実力を備えているからである。
南沙は香港から38海里(約70.38キロ)、マカオから41海里(約75.93キロ)の距離にあり、半径100キロ圏内に大湾区の11都市と5つの国際空港が集まっている。地理的には、珠江デルタ両岸の都市群と港澳地区をつなぐ中核的な結節点であり、大湾区の幾何学的中心とも言える立地を有する。
こうした地理的優位性は、南沙の経済発展にとって他に類を見ない条件となっている。
改革開放の最前線として、金融は南沙が高品質な発展を実現し、高水準な対外開放を進める上での重要な手段となっている。これまで数々の金融開放政策が南沙で先行的に実施され、金融業はゼロから急成長を遂げ、2015年にはGDPにおける付加価値比率がほぼゼロであったものが、2024年には約10%にまで上昇している。
現在、南沙には銀行、証券、リース、プライベートエクイティファンドなど23種にわたる金融業態が集積し、全国で最初の越境貿易・投資の高水準開放試験区にも指定されている。さらに、広州先物取引所がここに設立され、全国初の証券系QDLP(限定目的私募ファンド)による海外投資案件も南沙で成立するなど、資金の「呼び込み」と「送り出し」がともに活発化している。
こうした中で、南沙は金融分野において着実な実力を蓄積してきた。このような背景から、国家は南沙に対し、金融改革・開放の先進モデルとして大きな期待を寄せており、全国で唯一、3度にわたり国家レベルの金融開放政策を受けた区レベル地域となっている。
今回発表された「南沙金融30条」は、南沙の金融改革に再び戦略的な位置づけを与えるものであり、金融開放とイノベーションの推進にさらなる権限と原動力を与えるものである。南沙はこの政策を活かして、粤港澳における金融連携の障害を打破し、全体の広がりをもって広東省の金融強化や大湾区の国際金融ハブ形成をけん引し、この「試験区」において新たな金融開放の高地を築いていくことになる。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM