一部の自動車メーカーによる大幅値下げが「価格競争」への懸念を引き起こし、仕入先の中には代金回収の困難から資金繰りに苦しむ企業も出ている。さらには、未成熟な運転支援システムを「業界トップレベル」と自称する例もあるなど、新エネルギー車産業の急速な発展の中で数々の乱れが表面化している。
こうした状況に対し、中国政府は国家レベルでの強力な是正措置を打ち出した。
2025年7月16日に開かれた国務院常務会議では、新エネルギー車産業を中心議題とし、現在の業界における非合理的な競争現象を厳しく指摘。目先と長期の双方を見据えた包括的な対策の実施が決定された。
現在、中国の新エネルギー車産業は「量の拡大」から「質の向上」へと転換する重要な段階に入っている。
2025年上半期、中国の新エネルギー車の生産台数は696.8万台、販売台数は693.7万台に達し、いずれも前年同期比で40%を超える増加を記録。新車販売全体に占める新エネルギー車の割合は44.3%に達した。
江蘇省常州市にある自動車製造工場=2025年7月10日撮影・資料写真(c)CNS/泱波
関連する推計によると、2025年には新エネルギー車の普及率が50%に達する見込みだ。
こうした急成長の裏で、新エネルギー車市場における非理性的な競争の弊害が目立ち始めている。企業の利益を侵食するだけでなく、製品の品質低下や消費者の権益侵害、さらにはサプライチェーン全体の健全な生態系を損なうリスクも生じている。
今回の常務会議で示された政策メッセージは非常に的を射ており、業界の核心的な問題点に鋭く切り込んでいる。
会議では、コスト調査と価格監視の強化が求められた。この措置の狙いは明確で、拡大する「価格競争」に歯止めをかけ、競争を健全な水準へと導き、業界全体が「売上は伸びても利益が出ない」という状況に陥ることを防ぐためである。
2024年の中国の乗用車市場では「価格競争」が激しさを増した。中国自動車流通協会の統計によれば、新エネルギー車の新車値下げ幅は平均1.8万元(約37万2418円)、値下げ率は9.2%に達した。
この「価格競争」は企業の利益を大幅に削るだけでなく、業界全体の持続可能性にも悪影響を及ぼしている。2024年の自動車業界の利益率はわずか4.3%にとどまり、下流の工業分野の平均利益率を下回っている。
2025年に入ってからは、車両メーカー間の価格競争がさらに激化。第1四半期には、自動車業界の利益率は3.9%にまで低下し、同時期の下流工業分野の平均(5.6%)より依然として低い水準にある。
こうした利益率の下落と価格競争の悪循環が続く中で、政策による介入の必要性が一段と高まっている。
会議の内容からは、今後、より精緻なコスト監視システムの構築も視野に入れていることがうかがえる。これにより、企業が原価を下回る価格で製品を販売する「ダンピング」的行為を把握しやすくなり、市場の秩序が乱されるのを防ぐことが可能となる。
実際、短期的に「値下げによる販売増加」を狙う戦略は持続性に乏しい。
コストを過度に圧縮すれば、サプライチェーンにおいて部品の品質基準が引き下げられ、安全性に問題が生じる可能性がある。また、研究開発やサービス体制への投資も削られ、企業の長期的な競争力を損なうことにもつながる。
このようなリスクに対応するため、会議では「製品の一貫性に対する監督・検査の強化」も提案された。
これは、値下げ競争の裏で一部の企業がコスト削減のために手抜き生産を行い、広告された仕様と実際の納品内容が一致しないなどの不誠実な行為を防ぐ狙いがある。
また、大手自動車メーカーによる中小サプライヤーへの未払い問題にも言及があり、主要企業には支払い期限の順守を徹底させ、サプライチェーンの資金フローを健全に保ち、産業全体の安定を守るよう求められた。
さらに会議では、競争秩序の長期的な健全性を確保する仕組みの整備が強調された。業界の自律性を高め、基準の策定を通じて産業の高度化を促し、企業には技術革新や品質向上を通じた競争力の強化を促している。
業界団体やリーディングカンパニーに対しては、率先して規範形成と内部監督機能を果たすよう期待が寄せられている。
国務院常務会議が打ち出した今回の包括的な政策パッケージは、中国がより安定的で予測可能な競争ルールを構築しようとする明確な意思表示である。産業競争秩序の大きな修正であり、外部からの規制強化と企業内部の自発的な改善の両輪を通じて、低レベルの消耗戦から高品質な競争協調へと産業の生態系を転換することが目指されている。