北京市・東三環鵬龍ビル前で、長年輝いてきたメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)のスリーポインテッドスターがひっそりと姿を消した。朝もやの中には華為技術(ファーウェイ、Huawei)が展開する「鴻蒙智行(HIMA)」の大きな文字が浮かび上がっている。このような新旧交代が今、中国各地で進行中だ。
「BBAを買うのはただのブランド目当て」――かつては冗談めかして言われていたこの言葉が、今や中国の高級車消費観念の激変を象徴する注釈となっている。
2024年北京モーターショーのメルセデス・ベンツブース=2024年4月25日撮影・資料写真(c)CNS/富田
2025年上半期、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ(Audi)といったBBAブランドの業績は軒並み振るわなかった。財務報告によると、ベンツの純利益は55.8%減、BMWは29%減、アウディは税引後利益が37.5%減少した。
特に注目すべきは、かつてBBAにとって「利益の搾乳器」と称された中国市場が、今や大きな変革期を迎えている点だ。
販売台数では、上半期にBBA3社の中国市場における下落幅はそれぞれ14.2%、15.5%、10.3%に達した。ベンツの財務報告によれば、中国市場は同社の収益減少が最も大きい市場で、28.6%の下落を記録した。
財務実績から小売市場まで、BBAが直面する変革の圧力は、内燃機関車時代のどんな課題よりも大きい。特に中国市場での不振は「出血点」と呼ぶにふさわしい状況だ。
近年、国産新エネルギー車を代表とする中国自主ブランドは、外観デザイン、スマートコックピット、自動運転体験からユーザー運用モデルに至るまで、破壊的イノベーションによって高級車の定義そのものを書き換えつつある。
例えば今年7月、鴻蒙智行の全モデル合計販売台数は4万7752台に達し、1台あたり平均販売価格は39万元(約804万6870円)、総売上高は186億元(約3837億7380円)に上った。同ブランドは新興EVブランドとして10週連続で販売首位を維持し、年間累計販売台数も新興ブランド及び高級車ブランドの中でトップの座を獲得している。
これに対し、BBAは大きなプレッシャーに晒されている。全国乗用車市場情報連盟の崔東樹秘書長によると、新エネルギー車の台頭により、高級車の販売促進策が強化されている。7月の高級車プロモーション割引率は27.2%と過去最高を記録し、前月比0.4ポイント、前年比2.1ポイント上昇した。
中国のある企業幹部は「ベンツ、BMW、アウディの30万~50万元(約618万9900~1031万6500円)クラスの車の市場を一気に奪い取る」と豪語していたが、現状を見る限り、これは単なる誇張ではなかったようだ。
不完全統計によると、販売不振により今年上半期だけで全国80以上のベンツ正規販売店が営業権を返上した。BBAの中国新エネルギー高級車市場における存在感は、内燃機関車時代の支配的立場とは対照的だ。
実際、BBAの不振は、電動化・知能化の波に直面する「ノキア的瞬間」と無関係ではない。内燃機関車時代の中国市場戦略は、新エネルギー戦線ではもはや通用しない。
例えばBMWの中国におけるEV普及率は20%に満たず、中国全体の新エネルギー車普及率44.3%を大きく下回っている。
中国新エネルギー車ブランドの激しい攻勢に対し、BBAが時代のスピードに見合った電動化戦略と製品を打ち出せていないことが、彼らの中高級市場シェアが侵食されている根本原因だ。
さらに深い次元では、産業バリューチェーンの全面的な再構築と市場占有率の再編が進行中である。
上半期の中国新エネルギー車輸出台数は106万台で、前年比75.2%急増した。崔氏の推計によると、2025年上半期の中国は世界の新エネルギー車市場の68%を占める見込みだ。
中国新エネルギー車の競争力は、末端製品の市場開拓だけでなく、電池、モーター、制御装置などのコア技術を掌握し、サプライチェーン全体で効率的かつコスト競争力のある電動化システムを構築した点にある。
注目すべきは、新勢力の追い上げに対し、BBAが積極的に変化を求めて中国ハイテク企業との協力を模索し始めていることだ。アウディは先進運転支援システムで華為と提携し、新型車を発表するなど、内燃機関車の未来に向けた新たな道を探っている。
変化を受け入れる姿勢は評価できるが、その効果はまだ未知数だ。市場は大企業のためらいや苦痛を待ってはくれない。この電動化と知能化が推進する市場主導権の交代劇は、まだ始まったばかりである。
BBAが大胆な変革を遂げられなければ、中国自動車市場、ひいては世界の高級車マップにおける主導的地位は、さらに弱体化する恐れがある。