大脳や歯のふわふわとしたぬいぐるみ「器官ぬいぐるみ」、腸をもじった「超腸発揮(腸の調子がいい)」バッジ、MBTIの4タイプを色で表した心臓型キーホルダー――。最近、北京市の病院や医科大学で販売が広がっている医学モチーフの文創商品(文化創意グッズ)が、これまで堅く専門的だった医学のイメージを覆し、若者を中心にブームになっている。
中でも北京協和医学院の文創商品は特に人気を集めている。平日の午後に店舗を訪れると、医師や医学生が次々と来店し、週末には観光客も足を運ぶという。医学生の孫婷(Sun Ting、仮名)さんは店頭で「大脳ぬいぐるみ」をすぐに購入。「机に置いて『集中しろ』と自分に言い聞かせる用と、仲間に『頭脳パワーをプラス』する意味で贈る用に2つ買った」と笑う。発売から2か月足らずで、大脳ぬいぐるみは売上トップとなり、追加発注が繰り返されている。
商品ラインアップはさらに幅広い。ゲーム用語の「バフ満タン(強化効果が重なった状態)」をテーマにしたバッジのブラインドボックス、脊柱を模した「スタッキングカップ」、医学用語を取り入れた胸章やノートなども好調だ。リハビリ治療中の王佳佳(Wang Jiajia)さんは「『毛根しっかり』バッジを買って、植毛を終えた同僚に贈りたい」と語る。バッジシリーズは「心想事成(願いが叶う)」「超腸発揮」など、SNSで人気のフレーズを器官に重ね合わせており、贈り物や自己表現として人気を呼んでいる。
北京協和医学院で販売されている文創商品。毛糸で作られた「大脳」キーホルダーが特に人気を集めている=提供写真(c)CNS
医学文創商品の熱は北京にとどまらない。香港医学博物館(Hong Kong Museum of Medical Sciences)ではユーモラスにデザインした器官ぬいぐるみが観光客に好評を博した。浙江省(Zhejiang)では外科医が退職後に「医MO」シリーズと名付けた医療従事者のフィギュアを発表し、医療現場の人びとから共感を得た。上海市精神衛生センターが販売した「精神餅」と呼ばれる月餅や、「退院記念」とプリントされたトートバッグも一時大きな話題となった。
こうした商品が広く受け入れられている背景には、病院と市民の距離を縮めたいという狙いがある。従来、病院のグッズは記念章やノートなど内部向けが中心で、一般の人の関心を引くことは少なかった。しかし今は、流行語や感情表現、斬新なデザインを取り入れることで、日常生活に溶け込みやすくなり、「専門的すぎて縁遠い」という壁を乗り越えている。
さらに、文創グッズには「気持ちを伝える手段」としての価値もある。王佳佳さんは「お医者さんに『体を大事に』と言われるより、このカップを贈られる方が印象に残る」と語る。医学モチーフの商品は今や遊び心にとどまらず、健康を気遣う贈り物や回復の記念としても活用されている。
日本でも、アニメ『はたらく細胞』のように体の仕組みをキャラクター化した作品が人気を集めている。体内を都市に見立て、赤血球や白血球、血小板といった細胞を「働く人」として描く手法は、物語を楽しみながら学べる仕掛けとして定着した。中国の医学文創はそうした試みに比べると始まりは遅いが、SNSでの拡散力や感情的な共鳴の強さに特色がある。
北京協和医学院と協力する医学可視化企業「一目可視」の創業者・周舒揚(Zhou Shuyang)氏は「科学的な正確さと楽しさを融合させることで、医学文創商品は専門性を保ちながら、感情を表現する媒体にもなれる」と話している。