「大手テック企業で働くアルゴリズムエンジニアの周碩(Zhou Shuo)さんは、いち早く「ザリガニ」を試した一人だ。ザリガニを使った感想を語るとき、その評価は高い。このザリガニは本物ではない。赤いザリガニのアイコンで知られるAIエージェント「OpenClaw」のことだ。
周さんは、実際の業務の一例として、同じ型番の商品について複数のサイトで注文価格を比較する作業を挙げた。結果は5分もかからず、正確率は100%だった。今、この「ザリガニ」は想像以上のスピードで各界の注目を集める新しいAIの形となりつつある。その過熱ぶりについては、騰訊(テンセント、Tencent)の馬化騰(Pony Ma)董事長でさえ「ここまでとは思わなかった」と率直に語っている。
「今はみんな『ザリガニ』を使い始めたいと急いでいる」。全国人民代表大会代表で中国工程院院士の高文(Gao Wen)氏のこんな冗談まじりの一言もあり、OpenClawはさらに多くの代表委員の関心を集めた。
この「ザリガニ」とは、いったい何者なのか。北京郵電大学(Beijing University of Posts and Telecommunications)経済管理学院の曾剣秋(Ceng Jianqiu)教授によると、OpenClawはオーストリアのプログラマー、ペーター・シュタインベルガー(Peter Steinberger)氏が開発したオープンソースのAIエージェントだ。最もシンプルなツールで複雑な問題を解決することを目指している。
このエージェントは今年1月末から注目を集め始め、ソフトウエア開発者のコミュニティー「ギットハブ(GitHub)」でも急速に人気プロジェクトとなった。これまで広く知られてきたチャットGPT(ChatGPT)や深度求索(DeepSeek)は、どちらかといえば「頭脳」に近い存在で、思考や文章生成を得意としていた。しかしOpenClawはそれだけではない。考えるだけでなく、実際に作業を実行することができる。
周さんは「一言指示を出すだけで、裏側で処理を進めてくれる」と説明する。これまでのAI大規模モデルが頭脳だとすれば、OpenClawはそこに手足が加わったような存在だ。日常的に使うFeishuや企業版の微信(ウィーチャット、WeChat)などのアプリに入り込み、さまざまな作業を代わりに行うことができる。曾剣秋氏は、OpenClawが急速に注目を集めた理由は、その新しい可能性にあるとみている。現在のAIは主に質問への回答を中心とする「弱いAI」の段階にあるが、OpenClawの登場はAIがより実際の行動を伴う方向へ進み始めていることを示しているという。
「ザリガニ飼育」ブームは、すでにテック大手の新たな競争へと発展している。最も積極的なのはオープンAI(OpenAI)だ。同社のサム・アルトマン(Sam Altman)CEOは、社内でOpenClawを導入すると発表しただけでなく、OpenClawの創業者をチームに迎え入れた。
OpenClawのロゴとザリガニのアイコン=提供写真(c)CNS
中国のテック企業も動きが速い。百度(Baidu)のアプリは春節(旧正月、Lunar New Year)前からワンクリックで呼び出せる機能を提供し、阿里雲智能(アリババ・クラウド、Alibaba Cloud)、騰訊雲(テンセントクラウド、Tencent Cloud)、聯通雲(Unicom Cloud)なども企業向けの導入ソリューションを相次いで打ち出している。この流れの恩恵を受けているのは中小企業も同じだ。中関村情報消費連盟の項立剛(Xiang Ligang)理事長によると、自身のチームでもOpenClawの導入を始め、マーケティングや顧客対応、製品開発などの効率向上に役立てているという。多くの中小企業にとって重要なのはAIモデルを開発することではなく、AIをうまく活用することだ。
地方政府も動き始めている。3月7日には深セン市(Shenzhen)龍崗区が「OpenClaw&OPC発展支援に関する若干の措置(意見募集稿)」を発表した。通称「ザリガニ十条」と呼ばれ、「ゼロコストでの起業」を大きな特徴として、世界のAIエージェント起業の拠点づくりを目指している。
なぜこれほど注目されているのか。一つはユーザーとの接点を巡る競争だ。今年の政府活動報告には初めて「AIエージェント」が盛り込まれ、2030年までに普及率90%超を目指す方針が示された。誰もが使うプラットフォームとなれば、次の時代の主導権を握ることにつながる。
もう一つはデータ資源の確保だ。調査会社IDCは、中国企業で稼働するAIエージェントの数が2031年までに3億5000万を超え、年平均成長率は135%以上になると予測している。AIの利用が増えることで、トークン消費量も大幅に増加すると見込まれている。さらに価値が高いのはユーザーの行動データだ。例えばOpenClawがユーザーの代わりに航空券を予約する際、クリックや入力、エラー、操作のやり直しなど、すべての操作が一連の行動データとして記録される。
こうしたデータはAIの行動能力を学習させるうえで非常に重要な資源となる。曾剣秋氏は「OpenClawの登場は、将来のAIエージェントが単なるツールではなく、新しい存在の形になる可能性を示している。対話や協働、自律的な進化といった能力を持つようになれば、人間の考え方も変えていく必要がある」と指摘する。
ただし、急速な広がりの一方でリスクも指摘されている。工業・情報化部のネットワークセキュリティ脅威・脆弱性情報共有プラットフォームは、OpenClawの一部の導入環境で設定が不適切な場合、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクが高まる可能性があると警告している。海外ではグーグル(Google)などのテック企業が従業員による利用を制限する措置も取っている。
周さんは「OpenClawは便利だが、無防備な状態で使うべきではない」と注意を呼びかける。まずは低い権限から使い始め、必要に応じて段階的に権限を広げることで、利便性と安全性のバランスを取ることが重要だという。あなたはもう、AIで「ザリガニ」を飼い始めただろうか。