中国映画界の巨匠・張芸謀(Zhang Yimou、チャン・イーモウ)氏が総指揮を執った2月4日の北京五輪開幕式。同じく総監督を務めた2008年北京夏季五輪の開幕式ではド派手な演出を繰り広げたのに対し、今回は「聖火台に点灯しない」という意外な方法を選んだ。張氏は開幕式後、中国メディアに「道を外れているのではないかと自問自答した」と心情を語っている。
中国映画の興行成績を塗り替えた武俠映画『英雄(英題:HERO)』、中国で絶大な人気を誇る高倉健(Ken Takakura)さんを主役に迎えた『千里走単騎(邦題:単騎、千里を走る。)』、米中合作映画『長城(The Great Wall)』など数々の名作・大作を手がけてきた張氏。2008年の開幕式では、北京の国家体育館(通称・鳥の巣)で大量の人員を投入して中国の悠久の歴史を表現。体操の五輪金メダリストで中国のスーパースター李寧(Li Ning)氏が聖火リレーの最終ランナーを務め、ケーブルで約60メートルの高さまでつり上げ、「鳥の巣」上空を飛ぶように走って点火したシーンは世界を驚かせた。
記者会見に出席する北京五輪開幕式を執った張芸謀総指揮(2022年2月5日撮影)。((c)CNS/李駿)
張氏は「今回の開幕式で中国5000年の歴史と文化をアピールすることはあまり考えなかった。I(私)を見せることからWe(私たち)を見せることに変え、今回の大会テーマ『一起向未来(共に未来へ)』を見せたかった」と説明。中国古来の二十四節気をカウントダウンに用い、空から降ってきた一滴の墨汁が黄河の水になるなど中国の伝統文化を随所に織り込みつつ、中国の歴史を誇らしげに語るような演出とは一線を隠した。
聖火台は、入場行進した91か国・地域の選手を先導したプラカードを組み合わせ、巨大な雪の結晶を形成。張氏は「唐の詩人・李白が北京の雪景色をつづった『燕山雪花大如席(燕山の雪花、大なることむしろの如し)』と西洋のことわざ『雪片には2つとして同じ形のものはない(No two snowflakes are the same)』を表現した」と明かしている。
そして聖火台にトーチをそのまま取り付ける方式を選んだことは、「低炭素社会の実現と環境保護のコンセプトから考えた」と打ち明ける張氏。「聖火は五輪の象徴。これまでの方式をひっくり返すことは、道を外れているのではないかと自問自答した」と振り返りつつ、「環境保護の概念が広まるにつれ、燃え盛る炎の形はいつか変えなければならないと考えていた。北京冬季五輪はまさにその最適なタイミングだった。炎の大小にかかわらず、みんなの心に火をともせば、それが最も明るい聖火になる」と強調した。
2008年の開幕式は4時間以上続いたが、同じ「鳥の巣」で行った今回は2時間以内に短縮。出演者も2008年の1万5000人に対し、3000人にとどめた。新型コロナウイルスの感染防止の狙いと、環境・省エネを重視する「グリーン五輪」の理念を反映させた。
今回の北京冬季五輪は風力発電などの再生可能エネルギーを活用し、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラルの五輪」を目指している。開幕式を通じて「簡素、安全かつ精彩」という今大会の理念を実現した張氏は、「『鳥の巣』は今回、競技には使われないので、既に閉会式の準備に入っている」と意欲を見せている。(c)東方新報/AFPBB News
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