アジアと欧州にまたがるユーラシア大陸の中間に位置する中国・新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)は、「海から最も遠い場所」と呼ばれている。新疆に行ったことがない人の多くがまず想像するのは雪山、草原、砂漠だろう。
ところが最近は、海とは無縁のこの地で水産物の豊漁の話題が盛り上がっている。ここで盛んに養殖されているのは、ニジマス、淡水種のオーストラリアロブスター、海水淡水両方で飼育できるバナメイエビなどだ。これが中国の消費者の間で次第に認められ、好まれるようになった。現地の人びとの収入増に貢献する重要産業になり、一部は海外にも出荷され始めた。
ニルカ県カラス郷のサケマス養殖基地のニジマス養殖網箱(撮影日9月9日)。((c)CNS/朱賀)
記者が9月初めに訪問したイリ・カザフ自治州(Ili Kazakh Autonomous Prefecture)ニルカ県(Nilka)カラス郷のサケマス養殖基地では、ニジマスの群れが養殖網箱から吸い上げ装置を通して岸に揚げられ、そのまま氷塊の詰まった保冷ボックスで急速冷却される様子が見られた。この保冷ボックスはまず沿岸にある加工基地に運ばれ、粗処理される。その後やはり冷蔵輸送でウルムチ市(Urumqi)の加工工場まで運ばれ、最終加工されるという。
このニジマスが、養殖場から4000キロも離れた上海市の消費者の食卓まで、24時間もかからずに届いてしまうのだ。
養殖場の責任者である張秀向(Zhang Xiuxiang)さんは「2014年に基地が建設されました。ニジマス1尾が魚卵から成魚になるのに3年かかりますが、厳しい観測と生育環境制御によって、その品質も栄養価も輸入物に負けていません。価格も輸入物より競争力があります」と話す。
新疆の水産物の養殖は、実は70年代におけるイリ河(Ili River)沿岸でのニジマス養殖から始まっている。
新疆ウイグル自治区水産科学研究所の張人銘(Zhang Renming)所長の説明によると、ニルカ県を流れるカシュガル河(Kashgar River)の水源は天山(Tianshan)山脈の雪解け水で、水温は常時摂氏20度以下、水質は清涼、冷水魚類の飼育に適している。
ニジマスは冷水域の回遊魚類で、海水でも淡水でも育てることができる。
淡水養殖のニジマスは海水養殖に比べ寄生虫の問題がないのではという点について、張所長は「養殖魚に寄生虫がわくかどうかは養殖の水質と安全管理の問題です。ニルカ県の水質は清浄で、魚卵は海外から輸送してからずっと人工養殖環境で育ち、全てのプロセスが完全に管理されているので、全く安全です」と説明する。
新疆地区は水が不足しているような印象があるが、実は河川、湖、ダム、天然の池などが多くある。第三次全国国土調査によると、漁業に適した干潟も4600ムー(約307万ヘクタール)ある。
農業農村庁漁業監督処の鄧康処(Deng Kangchu)処長の話によると、近年、淡水種のオーストラリアロブスター、カニ、ティラピアなどたくさんの種類の水産物が当地で試験養殖され、その品質も周囲から高く評価されているという。
また鄧処長は「新疆の魚類資源は豊富で、88種の魚類が生息し、そのうち46種が当地の在来種だ。歴史的要因と地理的要因で、当地在来の食用魚は独特の地域性があり、これらを地域特産の水産品として開発、利用することができる」と話す。
さらに、新疆には600から700か所のダムがあり、この中に冷水魚の養殖基準を満たす所が100か所余りあるという。鄧処長の話では、これらも場所ごとに検討して開発していく予定だ。
カラス郷のサケマス養殖場でエサやりをしていた職員の話によると、養殖場に就職して2年余り、現在は成魚養殖チームの責任者で、月給は5000元(約10万1678円)から6000元(約12万2014円)程度、自宅は車で1時間ほどかかる県の街中にあるが、基地では食住が無料提供されるので、同郷の仲間たちからも人気がある職場だという。
鄧処長の話によると、2022年の新疆の漁業総生産額は42億元(約854億円)に達し、19年比で9.21億元(約187億円)の増加、漁民1人当たりの平均手取り年収は1万9960元(約40万5900円)で、農村住民の1人当たりの可処分所得に比べ3410元(約6万9344円)高い。
新疆のカシュガル地区(Kashgar)マルキト県(Makit)で養殖されている淡水種のオーストラリアロブスターや、アクス市(Aksu)の潤沢農庄養殖基地のバナメイエビ、中国最大の内陸淡水湖であるボステン湖(Bosten Lake)で豊漁のカニなど、多種多様で豊富な新疆の水産物は、現地の漁民に幸福感と獲得感を与えるものであり、「天山から飛び出して世界に向かう」重要な資源なのだ。(c)東方新報/AFPBB News
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