マカオが収益額でラスベガスを抜き、世界一のカジノになったのは2006年のことだ。現在、ラスベガスとの収益額の差は約10倍にまで広がっている。マカオの人口は約70万人。カジノから上がってくる潤沢な税収は市民に現金給付などの形で還元されており、教育費や医療費も原則無料だ。
市民の不安はカジノへの過度な依存だ。人口の大半がカジノとその関連産業に従事し、税収の8割をカジノに頼っているからだ。ラスベガスの落日を対岸に見ながら発展してきたマカオである。カジノの上客(ハイローラー)たちが移り気であることは身に染みて知っている。
2016年公開の中国映画『北京遇上西雅図之不二情書(邦題:本がつなげる恋物語)』は、マカオのカジノスタッフとシアトルの不動産ディーラーによる文通の物語だ。カジノスタッフを演じたのは中国の人気女優、湯唯(タン・ウェイ、Tang Wei)。高額ゲームのプレイヤーにつく専属の担当者として、勝ったり負けたりする顧客の喜怒哀楽に付き合っている。
マカオの聖ポール天主堂跡(2023年1月23日撮影、資料写真)。((c)CNS/李亜南)
そんな彼女が資金繰りに困って、カジノで手持ち資金を賭けてしまう場面が出てくる。結局、負けてさらに窮地に追い込まれるのだが、天を仰ぎたくなるような生々しい心理描写が印象的だった。
マカオでは、比較的早い段階から市民のギャンブル依存症対策が進められてきた。特にカジノスタッフは依存症リスクが高いことから、カジノへの厳格な入場管理やメンタルケアなどが実施されている。映画のようにカジノの従業員が職場で大金を賭けるようなことは、あってはならないというのが常識のようだ。
基幹産業のカジノをどう扱うかはマカオの課題である。マカオ特別行政区はカジノ関連法などを改正して、収入源を多様化させようとしている。その目玉の一つが、昨年暮れに実施されたカジノの次期ライセンス入札だ。
2023年から10年間のライセンスを獲得した6事業者は、カジノ依存から脱却するために、総投資額の半分近くをカジノ以外の事業と国際観光客誘致に振り向けることを約束させられたのだ。
今年から6社は、それぞれと六つの歴史・文化エリアの活性化計画に取り組んでいる。例えば、6社のうちの1社である銀河娯楽集団(ギャラクシーエンターテインメント・グループ、GEG)は、コロアン島にある旧造船所跡の活性化を担当する。20世紀前半に建設され、主に木造船の製造とメンテナンスが行われていた造船所の跡地には、造船所の歴史や村の歴史の常設展のほか、週末には手工芸品などを販売するマーケットや、アーティストらによるパフォーマンスの上演などが行われている。今後、展示館や書店、カフェなどが続々とオープンする予定だ。
もっとも、カジノ目当ての観光客が、マカオの歴史や文化を知るために旧造船所跡地を訪れるとは思えない。しかし、こうした開発が進めば、非カジノ経済の活性化につながり、マカオの市民にとっては憩いの場にもなるだろう。
映画『本がつなげる恋物語』でも、緊迫した心理描写の合間に映し出される静かな港町にほっとさせられた。マカオの魅力はカジノだけではない。美食と文化、そして歴史。6社が担当する地域でも工事が進む。来年以降、ガイドブックが分厚くなるのが楽しみだ。(c)東方新報/AFPBB News
※「東方新報」は、1995年に日本で創刊された中国語の新聞です。