12月に入ると、中国の職場や学校は、春節(Lunar New Year、旧正月)の話題でもちきりになる。次の春節の2024年2月10日からスケジュールを逆算して、交通機関のチケット予約など準備を始めなければ間に合わないからだ。この時期、サラリーマンの気がかりは「有給休暇が取れるか」どうかである。
中国は広く、人口も多い。帰省するにせよ、旅行するにせよ、チケットもホテルも争奪戦である。少しでも長く休暇がほしい。ところが、有給休暇の日数は限られており、しかも取得しにくいのである。
江西省贛州市の贛州西駅で列車に乗る乗客たち(2023年1月27日撮影、資料写真)。(c)CNS/劉力鑫
最近では春節に帰省せず、春や秋の過ごしやすい季節に家族や親類で旅行するというスタイルも徐々に広がっている。
中国の有給休暇は、就職から1年後に5日、10年で10日、20年以上で15日と法律で決められている。あくまで制度の話であって、全部を取得できる人は少ない。2015年に北京市が公表した調査によると、取得率はわずか50パーセントだった。有給を取れない理由は「怠けている」と思われたくないからだという。
ちなみに日本も有給取得率が低いことで有名だが、それでも62パーセント(2023年調査)である。比較可能なデータは公表されていないが、中国の有給取得率は世界でもワースト1、2を争うのではないだろうか。
だが、有給休暇を取りにくい状況にも変化の兆しが出てきた。中国のサラリーマンが期待するのは、政府の後押しである。
中国では、コロナ禍からの個人消費の戻りが鈍いことが心配されている。10月分の経済指標によると、小売業の売上高は大型連休などの影響で前年同月比7.6パーセントのプラスになったが、消費者物価指数は0.2パーセントのマイナスとデフレ傾向が出ている。
デフレを警戒する中国政府は、相次いで消費拡大策を打ち出している。7月末に発表された消費回復・拡大のための「20か条の措置」では労働者の有給休暇の取得を奨励し、休日消費を拡大するという内容が盛り込まれた。
すでに都市部に暮らす労働者には、家電などの消費財は行き渡っており、いくら消費拡大を、といわれても買いたいモノはなくなっている。そこで、できるだけ長く休みを取らってもらい、旅行などで財布のヒモを緩めてもらおうという「国策」を打ち出したのだ。
10月に発表された来年の法定祝日でも春節連休は2月10~17日と「史上最長の春節連休」になった。除夕(おおみそか)の2月9日に休暇を取れば、9連休になると担当報道官はアピールしている。
政府の方針を受けて、各地方も11月中旬から観光分野を含む消費拡大策を発表している。もっとも、日本のように有休取得を義務づける法律は導入されておらず、どこまで有休取得率が上がるかは未知数だ。
世界2位の経済大国である中国が内需拡大をエンジンにした新たな成長軌道に乗れるかどうか。世界経済の安定にもかかわる重い課題だ。その鍵は意外に、中国の労働者がちゃんと有給休暇を取れるかどうかにかかっているのかもしれない。