【6月8日東方新報】「成都(Chengdu)の革新性、ファッション性、包容力が、eスポーツやアニメなど、あらゆる分野に体現されている。成都で作られた人気ゲーム『オーナーオブキングス(王者栄耀、Honor of Kings)』や、大ヒットしたアニメ映画『ナタ転生(Ne Zha)』も成都生まれだ」、6月上旬に中国・成都市(Chengdu)の「天府国際アニメーションシティ」で『オーナーオブキングス』のオーディションを観戦していた成都の大学生・王瑶(Wang Yao)さんは、熱く盛り上がる成都の「二次元文化」を誇らしげに友人たちに話して聞かせた。
日本市場に出回る「メイドイン成都」のアニメ作品の一部(写真提供:成都凱特世紀動漫制作有限公司)
成都は、中国の「四大デジタルメディア技術産業化基地」の一つで、「アニメーションの都」として名声を高め、アニメ産業チェーンが急速に進展している。
『十万個冷笑話(Shiwan ge Lengxiaohua)』、『ナタ転生』、『遮天(Zhe Tian)』から、テンセントアニメ(Tencent Comic)で人気指数が12億以上の『蔵鋒行(Cangfenghang)』まで、アニメ作品の驚異的なヒット作が、成都から数多く生み出され、「二次元文化」が、この千年の古都の新たな熱いトレンドとなっている。
アニメ映画『ナタ転生』は興行収入50億元(約1078億円)を突破し、中国アニメ産業の新記録を更新した。また、オーストラリアでの公開初日には、過去10年間の同国における中国語映画の興行収入の最高新記録を打ち立てた。
このアニメーションのメイン・クリエイティブ・チームは、やはり成都の「成都可可豆動画影視(Cocoa Bean Animation Film and Television)」だ。
絹の旗をまとい、風と火の輪を踏む高さ6メートルのナタ(哪吒)IP像(撮影:張朗)
近年、成都のアニメ企業は様々な方面で花を咲かせ、多くの経験豊富なアニメ人材、人気アニメ作品、トップクラスのアニメ企業を生み出し、アニメ産業チェーンの上流、中流、下流の企業群の相互協力による発展パターンが形成されている。
「アニメ産業は、プロデューサーの経験とレベルによって大きく制限される。私の周りには30歳代のアニメ関連業務の従事者が多いが、彼らは若い頃に成都のアニメーションクラブに参加した経験がある。『アニメの街・成都』が彼らを育て、アニメを心から愛する気持ちと相まって、クリエイターたちが業界で輝けるようになった」、成都凱特世紀動漫制作(Chengdu Kaite Shiji Dongman Zhizuo)の副総経理で、アニメ『蔵鋒行』のメイン脚本家の程梁(Cheng Liang)氏はこのように語る。
程氏は、成都には完璧なアニメ産業の上流から下流までの産業チェーンがあり、成熟したアニメ産業の生態系があるため、多くの高品質なアニメIP(作品やキャラクター)が孵化醸成され、世界に羽ばたくことができるのだと見ている。
『蔵鋒行』は成都のアニメ産業が「海外に羽ばたく」ことの象徴的な作品となっている。成都で生まれたこのオリジナルアニメは、日本語、韓国語、英語などに翻訳され、日本最大のアニメ有料プラットフォーム「ピッコマ(Piccoma)」と韓国最大の有料アニメプラットフォーム「カカオ(KaKao)」で独占提供され、海外で100万人以上のファンを獲得している。
漫画家の郭祥(Ge Xiang)氏は「成都は中国でアニメ産業が最も発展する可能性がある都市の一つです。成都の文化は十分な包容力を持ち、生活や通勤のプレッシャーは北京や上海や広州よりはるかに小さく、アニメ制作者にとって非常に理想的な創作環境にあります」と話す。
彼は成都で代表作『成為克蘇魯神主(クトゥルフ神主になる)』を完成させた。この作品はインターネット上で3億5000万回以上閲覧され、英語版は米国に上陸し、同期間に1万人以上のセルフメディア・ブロガーがSNSプラットフォームで、この漫画を分析、解読している。
古典的なキャラクターの手作りフィギュアを数千体集めた成都の「模坑(Mokeng)博物館」(撮影:王磊)
郭氏は「成都のアニメ産業は中国の沿海都市に比べると比較的遅れて始まったが、発展の充分なエネルギーを持っている。成都の利点は、市レベルでアニメ産業への支援措置を導入しているだけでなく、各地区や県でも支援政策を導入し、トップ企業を支援するのみならず、中小零細企業にも配慮しており、非常に実効性がある」と見ている。
成都はここ数年、トップクラスのアニメ企業の継続的な誘致のほか、地元の代表的なアニメーションゲーム企業を育成し、多くの有名なアニメフェスティバルとアニメ展覧会活動に力を注ぎ、それらを丁寧にブランド化してきた。
今年6月、「天府国際アニメシティー」で大規模なアニメ展が2回開催され、「成都天府紅(Tianfuhong)」などのショッピングセンターでも次々にアニメ関連イベントが催され、多くの「二次元文化」ファンを惹きつけ、消費を促した。
5月1日、成都で開幕した「第15回世界ラインアニメ展」(写真提供:天府新区メディアセンター)
「成都天府紅ショッピングセンター」は、経営の50%以上を「二次元文化」と「文化創造」が占めており、センターの1階にあるブランドガイド画面では、「二次元のファンタジーの旅」という歓迎のフレーズが使われているほどだ。休日になるとここはいつも大人気で、入場の人数制限が必要な時まである。
「成都天府紅ショッピングセンター」(撮影:楊玉迪)
成都でショートビデオ制作の企業に勤めるホワイトカラー・翁曦(Wen Xi)さんは「今年、友人たちが何度か成都に来ましたが、彼らが最初に行ったのは天府紅ショッピングセンターでした」と話す。
翁さんは大学を卒業した後、自ら選んで成都に働きに来たが、成都の「二次元文化」への親しみと包容力を深く感じたという。地下鉄でアニメのキャラクターの衣装を身につけた「コスプレイヤー」を見ても、誰も驚かないし、変な目でも見られないという。
今年の6月1日「六一国際子どもの日(International Children's Day)」に、成都市の成華区(Chenghua)では市民向けに、古典的青春舞台劇『小王子之星球奇遇記(王子さまの宇宙旅行)』の無料観賞を実施した。この舞台劇は「3D舞台」を使用し、ユーモラスなセリフと楽しいオリジナル音楽と入念な舞台設計の相乗効果で、子どもから大人まで、まるで宇宙にいるかのような没入感を感じさせる演劇となっていた。
成都市で家庭を持つ陳紅雨(Chen Hongyu)さんは「成都は世界の文化都市となり、住民の文化面での生活は非常に豊かで、過去2年間、成都の商業街で、ほとんど毎週、様々なアニメ関連の舞台劇が上演されています。最近は子どもを連れて『西遊記(さいゆうき)』と『海底小縦隊(Haidi xiaozongdui)』など多くの舞台を見に行きました。アニメ関連の舞台劇は、子どもの芸術への興味を刺激し、子どもの成長にとって非常に有意義です」と語る。
世界的に不動産関連サービスを展開するコンサルタント会社「戴徳梁行(Cushman&Wakefield)」の中国西部副総経理の廖穎(Liao Ying)氏は、かつてメディアの取材に応じ、「強力なテーマの植え付けが、特定の消費者層を惹きつけるための重要な要素だ。商業施設は従来の業態区分、運営思想、空間設計を打破し、二次元文化に寄り添ったサービスを提供することで、二次元文化ファンが求める没入型テーマ体験を十分に満たす必要がある」との指摘をしていた。
『羅小黒戦記(The Legend of Hei)』などの中国アニメが大好きな日本の中央大学の学生・埋金陽歩(Maijin Yangbu)さんは、「天府国際アニメーションシティ」を見学した後、「中国のアニメの画風は繊細で美しく、中国独特の文化的要素を持っているので、日本でもますます多くの若者に好まれるようになってきました」と話す。
彼女は、日中両国がアニメ、ゲームなどの分野で交流し協力することで、より多くの傑作が生み出されることを楽しみにしているという。
今年3月、「天府国際アニメーションシティ」を見学する「日本の大学生100人の中国体験」活動に参加した39人の日本の大学生 (撮影:張朗)
「天府国際アニメーションシティ」は、伝統的な産業園区とは異なり、中国初のアニメをテーマとした、産業/商業/観光/教育の境界を画さないセンターを目指している。
同センターの計画では、科学技術イノベーションを堅持し、イノベーションチェーン、産業チェーン、資金チェーン、人材チェーンを深く融合させ、主導的役割の企業が集約統合能力と牽引力を最大限に発揮させ、産業チェーンの上流から下流までの、また左岸と右岸までの集積統合を促進するとしている。
漫画「琅琊榜(Nirvana in Fire)」の羅琳(Luo Lin)編集長は、「AI技術の発達が、伝統的なアニメ産業に新たな挑戦と機会を与えている。成都は間違いなく産業の変化がもたらす新興の技術を前もって認識し、前もって対応の体制がとれる都市である。また、成都の古代蜀文化、三国文化、ジャイアントパンダの文化が、地元のアニメクリエーターに対して、絶えず養分を提供している」と分析する。
羅氏は「過去2年間、創作は混迷の時代に入ったと思われたが、政府の努力、クリエイターの努力、プラットフォームの努力によって、混迷の先に次の新しい出発点の始まりがある」と期待している。
漫画「琅琊榜」のサイン会に集まった多くのファン (写真提供:成都凱特世紀動漫制作有限公司)
「成都市デジタル文化創意産業発展『14次五か年計画』」の中で、成都は「中国の有名なアニメ都市」になると宣言している。また「成都市14次五か年計画」の中で、アニメとゲームを、成都の八大重点産業の一つに挙げている。
成都の文化・クリエイティブ産業の付加価値は、2025年までに3000億元(約6兆4650億円)を超え、成都のGDPの12%以上を占めると予想されている。
アニメ産業で、成都は「瞠羚谷(ガゼルバレー、Gazelle Valley)デジタル文華創造園」「天府国際アニメーションシティ」「量子領域デジタル文化双創産業園区」などを拠点に、多くの独創的アニメ制作、ゲームソフト開発、Eスポーツ運営企業を集積し、多くの質の高い独創的なアニメとゲームのIPを造り上げ、アニメ産業を核としたアニメ産業園区と都市型アニメテーマ観光地を建設するとしている。
現在建設中の「天府国際アニメーションシティ」(写真提供:天府国際アニメーションシティ)
「成都大学観光文化産業学院」の陳舒慧(Chen Shuhui)副教授は「成都は地理的には盆地だが、中国のアニメ産業においては高地だ。成都は多くの優れたアニメ作品を生み出し、成都で開催される各種の展覧会は中国と海外のアニメファンにとっての文化の饗宴となり、アニメ産業から派生した融合プロジェクトは、成都の文化的体験をいっそう豊かにし、成都に新たな活力を注入している」と強調する。
また陳氏は「近年、成都のアニメ産業は、政策的支援、人材育成、技術革新、市場拡大などの面で目覚ましい成果を上げている。成都のアニメ産業は、技術の進歩や市場の拡大に伴い、今後も発展の勢いを維持し、『中国の有名なアニメ都市』として成長の波に乗り続けていくだろう」という未来予測を語った。