かつては「レッドオーシャン」とされていた外売(デリバリー)と配車サービス市場に、新たな強力なプレイヤーが現れた。
最近、京東(JD.com)はフードデリバリー業界に参入することを発表し、正社員の配達員(ライダー)に対して社会保険と住宅積立金を提供することを宣言した。ここの発表により業界は大きく揺れ、中国のフードデリバリー大手「餓了麼(Ele.me)」や「美団(Meituan)」も正社員の配達員に社会保険を提供する方針を打ち出した。
フードデリバリー業界は誕生以来、価格競争、オフライン営業の拡大、「二者択一」の激しい競争を経験してきた。市場はすでに成熟期に入り、モバイルデータ通信の成長期も過ぎている。それにもかかわらず、なぜ京東は今になって参入を決めたのか。
京東はフードデリバリー市場に参入する際、「手数料無料」と「高品質の堂食(店内飲食)限定」という2つの特徴的な戦略を掲げ、他のプラットフォームとの差別化を図っている。特に、2025年5月1日までに登録した店舗には、年間手数料を無料にするという特典を用意している。
実際に、京東アプリの「秒送専区」セクションに「高品質外売」の入口が設置され、非常に目立つ位置にある。配達は「達達秒送」と店舗の自社配送を利用している。現在、「京東外売」は全国39都市でサービスを展開しており、一部の都市では短期間で注文数が100倍以上に急増している。
京東は、2025年3月1日から正社員ライダーに対して社会保険と住宅積立金を提供し、パートタイムライダーには傷害保険と健康医療保険を提供すると発表した。
この発表に対し、美団はすぐに反応し、正社員および安定したパートタイムライダーに対して社会保険を提供する方針を発表した。さらに、餓了麼も社会保険を導入し、現在は全国7都市で「新職傷」保険の適用を進めている。
フードデリバリー市場はすでに美団と餓了麼が90パーセント以上のシェアを占めているが、京東の参入はまったくの意外というわけではない。2022年には京東幹部が「外売市場への参入を検討している」と発言しており、今回の発表は準備を進めていたことを裏付けている。
京東がフードデリバリー市場に参入した理由の一つに、京東の物流ネットワークの有効活用がある。特に、京東の倉庫と配送システムはデリバリー業務のコスト削減に貢献し、即時配送の分野で強みを発揮できる。
美団の配達員(2024年2月20日撮影、資料写真)。(c)CNS/蔣啓明
また、京東は「高品質の堂食レストラン限定」という戦略を掲げており、これにより「幽霊店舗」などの問題を避け、信頼性と品質をアピールしている。
京東が正社員ライダーに社会保険と住宅積立金を提供することは、業界に大きなインパクトを与えた。これにより、ライダーの幸福感が向上し、人材の定着率を高め、競争力を強化することが期待されている。
一方で、フードデリバリー市場は美団と餓了麼の2社でほぼ独占されているため、京東が長期的にシェアを獲得するためには、さらなる投資が必要だという指摘もある。国信証券の分析によれば、デリバリー市場はすでに成熟しているため、京東が大きなシェアを獲得するには大規模な投資と戦略的な展開が不可欠とされている。
京東がフードデリバリー市場にどのような影響を与えるのか、そして既存の美団や餓了麼がどのように迎え撃つのか、今後の動向が注目されている。(c)東方新報